抜歯を宣告された際の取れる対処方法|後悔しないための選択肢


ある患者さんのケース

患者さん:「先生…やっぱり抜かないとダメですか?」
歯科医師:「残念ですが、この奥歯は大きな虫歯で歯の根まで進んでしまっています。神経の治療も難しく、歯を残すと周囲の歯や歯ぐきに悪影響が出る可能性が高いです」
患者さん:「抜歯って怖いし、その後どうなるのか不安です…」
歯科医師:「抜歯はたしかに勇気のいる判断です。ただし適切に対応すれば、その後の生活に支障なく噛む力を取り戻すことは可能です。一緒に選択肢を考えていきましょう」

このように「抜歯の宣告」は、多くの患者さんにとって突然の大きなショックです。
正直に申し上げて、歯科医師側も持てる治療の引き出しを全て出し切って、その結果として他に手段がない最終手段として抜歯を宣告しています。
その際にはやはり自分の診療技術は無限ではないという治療における限界のようなものを感じます。
「歯医者はお金儲けのために抜歯を勧めるんだ」
そういったことを言われたこともありますが、断じてありませんし、
ハッキリ言って現代の歯科医療で歯を抜いた方が歯科医師が得をするということはないと思っています。


とはいえ、実際に歯科医師が抜歯を勧めるときには明確な理由があります。今回は様々な抜歯と宣告されるケースの紹介と、抜歯を避けてなんとか歯を保存する方法、そして抜歯となった場合の次の治療法について解説していきます。


抜歯を勧められる主なケース

  1. 重度の虫歯や歯周病
    • 虫歯が歯の根まで到達し、根管治療(歯の神経を取る治療)でも保存が困難な場合。
      例えば虫歯を取り切ると健全な歯の部分がほとんどなくなり、歯肉から上に歯がほとんどない場合や虫歯を取り切ると歯に穴が空いてしまっている場合などは、
      歯を残せたとしても、その上に補綴物(被せ物や差し歯)の装着、維持が取れないため結果的に治療してもすぐに取れてしまったりするので、結果的に残しておいても使えないという意味で抜歯となる。
    • 歯周病で歯を支える骨が大きく溶け、歯がグラグラしている場合。
      例えば歯の周りの骨が溶けてなくなる場合、その歯だけでなくその周囲の歯の周りの骨まで溶かしてしまう可能性があります。
      結果的に複数本歯を失ってしまうリスクがあるので、早期に抜歯して、他の歯を温存するという方法を取ります。
  2. 歯が割れている(歯根破折)
    • 歯の根が割れてしまうと修復はほぼ不可能で、周囲に感染を広げる原因になります。
      破折している場合はその破折線から感染や接着剤、セメントの漏洩があります
      感染するとその破折部位に歯周ポケットができ、そこにお口の中の細菌が入り腫れたり膿が出たりします。
      また破折線からセメントの漏洩があると隙間ができて、被せ物や差し歯を維持することが難しくなり、何度も取れてしまうという状態になります。
  3. 親知らずのトラブル
    • 斜めに生えて隣の歯を押している、腫れや痛みを繰り返す場合は抜歯が必要になることも。
      親知らずはその存在があることによって他の歯を虫歯や歯周病にしてしまったり、
      頬粘膜を傷つけたりして痛みや腫れの原因となります。
      親知らずがあるから全ての場合抜歯が必要なわけではなく、その存在によってデメリットが生じる場合に抜歯が必要となります。
  4. 矯正治療のための便宜抜歯
    • 歯並びや噛み合わせ改善のために、スペースを作る目的で健康な歯を抜くケースもあります。

抜歯を避けたいときにできること

抜歯を告げられても、すぐに諦める必要はありません。状況によっては以下の選択肢があります。

  • 根管治療(歯の神経の治療)を丁寧に行い、歯を保存する

歯の根の中に感染が起きてしまっている場合に、歯を保存する方法として、根管治療というものがあります。
いわゆる歯の神経の処置ですが、感染が起きてしまっているものに対して行うのは「感染根管治療」ともいいます。

根管治療は歯の根っこの入り口が非常に細かく0.1~0.3mm程度で裸眼ではしっかりと確認しにくいです。
拡大鏡を使用することで、4〜5倍に拡大して観察しながら治療することができます。
しっかり感染を除去することができれば、根管内にお薬を詰めて再度その歯を使うことができます。

また歯肉から出ている歯の量が少ない場合、クラウンレングスニングという歯茎を下げてあげる処置をすれば、歯茎から出ている歯の量を増やすことができ、その上に被せ物などをして歯を残して噛めるようにすることができます。
しかしこのクラウンレングスニングという治療方法は歯肉の切開など外科的な処置をする必要があること
そして歯の根っこがある程度の長さあることなどが条件となってきます。
条件にさえ当てはまると、抜歯を回避し、できるだけ長く自分の歯で噛むことができます。

  • 歯周病の徹底的な治療や外科処置で歯を安定させる

歯周病は特に歯周組織の破壊と噛み合わせの力によって複合的に生じます。
歯ブラシをどれだけ頑張っても歯石は取ることができませんし、ましてや歯茎の中の歯石は歯科衛生士さんなどに専用の器具を使ってとっていただく必要があります。
また歯周治療をどれだけ頑張っても、噛み合わせによって強く当たる部分や噛み締め、食いしばりがあるとどんどん病状は進行していきます。
定期検診に通っていただいていても、歯周病が進行して、結果的に歯を残せなければ意味がありません。
お口の中の状況は患者さん一人一人によって千差万別です。
患者さんに合った治療方法やお手入れの方法をお伝えするのも、歯科医院の役目だと思っております。

  • セカンドオピニオンを受ける

抜歯をしないデメリットももちろんあります。
歯科医師が「保存困難」と判断する場合には、それだけリスクが高いということです。無理に残してしまうと、痛みの再発や感染拡大、周囲の歯まで失うことにつながりかねません。


抜歯しない場合のデメリット

「なんとか抜かずに済ませたい」と思う方は多いですが、放置することで以下の問題が起こり得ます。

  • 強い痛みや腫れの再発被せ物を作ったのにすぐに取れてしまうなど
  • 膿が溜まり、顎骨に炎症が広がるリスク
  • 隣の歯まで虫歯や歯周病が波及
  • 全身への悪影響(心臓病や糖尿病の悪化など)

「抜かない選択」が、かえって大きな後悔を招くケースも少なくありません。

個別ケースによって条件が異なりますので、一度歯科医院にてご相談されることをお勧めします。


抜歯後に選べる治療方法

歯を失った後、そのままにしておくと噛み合わせが崩れたり、隣の歯が傾いてきたりします。
そこで、抜歯後には必ず補う治療が必要になります。主な選択肢は次の3つです。

① ブリッジ

  • 特徴:両隣の歯を削って土台にし、連結した人工歯を被せる方法。
  • メリット:固定式で違和感が少ない、治療期間が比較的短い。
  • デメリット:健康な歯を削る必要がある、支えとなる歯に負担がかかる。

② 入れ歯(部分入れ歯)

  • 特徴:金具や樹脂で歯を補う取り外し式の方法。
  • メリット:比較的安価、短期間で作製可能、複数の歯を一度に補える。
  • デメリット:装着感に慣れが必要、噛む力がやや弱くなる、見た目の違和感が出る場合も。

③ インプラント

  • 特徴:人工のチタン製の歯根を顎の骨に埋め込み、その上に人工歯を固定する方法。
  • メリット:天然歯に近い噛み心地、隣の歯を削らない、見た目が自然。
  • デメリット:外科手術が必要、治療費が高額(当院では1本40万円ほど)、全身状態によっては適応できない場合も。

後悔しないために大切なこと

抜歯を勧められたときに大切なのは、「情報を正しく理解し、自分に合った選択をする」ことです。

  • 担当医に治療のメリット・デメリットをしっかり聞く
  • 他の歯科医院で意見を聞いてみる
  • 抜歯後の治療方法を具体的にイメージしておく

歯を失うこと、抜歯と宣告されることはショックですが、適切に対応すればその後の生活の質を守ることは可能です。

そして正しく対応しないと、後からお口の中の環境は大きく崩れてきます。
早期発見早期治療を行うことが、お口の中の優良な環境を維持する方法です。


まとめ

「抜歯を宣告された」ときは誰しも不安を感じます。
しかし、抜歯には必ず理由があり、放置することのリスクも存在します。

  • 抜歯を勧められるケースは 重度の虫歯・歯周病・歯根破折・親知らずの問題など
  • 保存治療が可能な場合もあるが、無理に残すと 周囲の歯や体全体に悪影響
  • 抜歯後は ブリッジ・入れ歯・インプラント という選択肢がある

大切なのは「納得したうえで前向きに選択すること」です。
不安を一人で抱え込まず、信頼できる歯科医師と一緒に最善の道を探していきましょう。